2014年12月12日(金)に、2014年度ゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」を、昨年に引き続き東京国際フォーラムで開催しました。
最初に、ゲノム支援の研究代表の小原雄治先生(国立遺伝学研究在所)から、ゲノム支援の取組に関しての簡単な説明とゲノム科学の現状に関してのお話がありました。
ゲノム支援の成果発表に関しましては、多細胞生物、ゲノム医科学、微生物の各分野から各2題の発表を行いました。
最初に、東京大学の平良眞規先生から発生生物学や細胞生物学のモデル生物として古くから重用されているアフリカツメガエル(Xenopus laevis)のゲノム解析に関するお話がありました。Xenopus laevisのゲノムは異質4倍体であることからゲノム解読が困難でしたが、この度ゲノム支援の成果も含めた日米国際共同研究により解読に成功しました。また、既に解読されている2倍体で姉妹群のSilurana tropicalis(通称Xenopus tropicalis)の全ゲノム配列と染色体ごとに比較して、染色体倍化後のサブゲノム進化を解析した結果のお話もありました。全ゲノムの倍化は遺伝子機能を多様化することで、環境適応能力を増大(Xenopus tropicalisは熱帯アフリカだけに生息するが、Xenopus laevisは温帯地域を含むアフリカ大陸全土に生息する)させると考えられ、生物の進化メカニズムの一端に迫る研究に関しての解説がありました。
続いて、東京大学の河野重行先生から「藻類の雌雄非対称性の成立」と題して、同型配偶子生殖や異形配偶子生殖の中間段階にあると考えられているヒラアオノリのゲノム解析から雌雄の非対称性に関する研究のお話がありました。ヒラアオノリの雌雄両方の株のゲノム配列を解読して、その比較から性特異的なゲノム領域が特定されたこと、遺伝子発現解析の比較から雌雄で発現量が異なる遺伝子の解析などの興味深いお話がありました。
藤田保健衛生大学の倉橋浩樹先生からは、「染色体構造異常の発生メカニズム」と題して、生殖細胞系列で見られるAT含量に富む回文配列に誘発される反復性転座に関して、切断点の構造解析から転座のメカニズムに迫る研究の紹介がありました。回文配列部分の配列解析は旧来のサンガー法では難しかったが、次世代シーケンサーの登場で解析可能となり、新たな知見が蓄積しつつあるとのことでした。また、染色体転座による習慣流産も着床前診断に全ゲノムシーケンスが応用され始めるなど、実際の診療の場にゲノム解析技術の貢献が始まっていることが紹介されました。
大阪大学の河原行郎先生からは、「神経変性疾患とRNA結合蛋白質」のお話がありました。近年、遺伝性筋萎縮性側索硬化症 (ALS)の疾患特異的変異がRNA蛋白質遺伝子に見つかっています。PAR-CLIP法と呼ばれる最新の実験手法を駆使して、これらのRNA結合蛋白質の標的と機能に関した研究の成果が紹介されました。Ataxin-2と呼ばれる蛋白質は、遺伝子の発現過程で働くmRNAに結合し、その安定性に関係していることが示されました。そして、様々な神経変性疾患で見られるAtaxin-2のポリグルタミン鎖の異常伸長が、mRNAの安定性を促進する機能を減弱させることが紹介されました。
東京大学の吉澤晋先生からは、「ゲノム解析が切り開く微生物の新しい光エネルギー機構」と題して、海洋微生物のゲノム解読を通した光エネルギー利用機構の研究結果に関してのお話がありました。従来、海洋生物は光合成を通じて太陽光からの光エネルギーを獲得していると考えられてきましたが、光駆動型プロトン(H+)ポンプを介したエネルギー獲得機構が海洋細菌に広く存在することが知られてきました。今回、海洋細菌分離株のゲノム解読により,光駆動型H+ポンプに加えてNa+ポンプ及びCl-ポンプを持つことが明らかになり、海洋細菌の多様な光エネルギー獲得機構が解明されつつあるとのことでした。
大分大学の山岡吉生先生からは、「アジアにおけるヘリコバクター・ピロリゲノムの多様性」と題して、ヒトの胃に生息して胃がんを含む様々な疾患のとの関係が指摘されているピロリ菌ゲノム解析のお話がありました。アジア各地のピロリ菌ゲノム解析と胃がんの発症率や死亡率の解析から、ピロリ菌の病原遺伝子の謎に迫る研究のお話がありました。また、ピロリ菌は親から子へ垂直感染することから、菌の系統関係と人類の系統関係が相関するので、様々な地域・民族のピロリ菌ゲノムを解読して、人類の系統関係・移動経路を推測した研究の紹介がありました。