2016年1月14日(木)に、2015年度ゲノム支援公開シンポジウム「次世代ゲノム科学の最前線」を、今回は秋葉原のUDX Gallery Next で開催しました。
最初に、研究代表の国立遺伝学研究所・小原雄治先生から開会の挨拶があり、最終年度を迎えたゲノム支援活動の紹介がありました。続いて、ゲノム支援活動の学術調査官である奈良先端科学技術大学院大学の西條雄介先生からご挨拶を頂戴しました。
最初の講演では、東京大学の宮脇哲先生から、「もやもや病」感受性遺伝子と動脈硬化性の頭蓋内主幹動脈狭窄(頭蓋内狭窄)との関係に関するお話がありました。脳血管疾患において「もやもや病」感受性遺伝子RNF213の変異を調べ、更に頭蓋内狭窄での脳梗塞・動脈硬化に関連する遺伝子領域の次世代シークエンサーによる解析等を行ったところ、頭蓋内狭窄に対してはRNF213変異が最も高い関連を示しました。RNF213変異には高血圧・耐糖能と関連するとの報告があり、頭蓋内狭窄・脳卒中のバイオマーカーと考えることが出来るとのお話でした。続けて、東大病院で始まったRNF213の遺伝子診断に関しての紹介がありました。
次に、基礎生物学研究所の長谷部光泰先生から、複合適応形質進化に関するお話がありました。複合適応形質進化とは、食草転換、擬態や共生などのように、複数の形質進化が積み重なることによってはじめて適応的になり、未完成な段階ではかえって生存に不利になるような形質の進化のことです。長谷部先生が代表の新学術領域研究「複合適応形質進化の遺伝子基盤」と「ゲノム支援」が共同で解析した、食虫植物、昆虫の食草転換、チョウの擬態、菌類と植物の共生、などに関する研究結果の一端が紹介されました。動画を使った分かり易い説明で、生物の様々な生存戦略とその背景にある遺伝子の働きや進化の過程を知ることが出来ました。
休憩後は、東京大学の後藤由季子先生から、「神経幹細胞の運命を司るクロマチン制御」と題して、発生中のマウス大脳新皮質において多様な種類の神経細胞が必要な数だけ作り出され、正しい位置に配置されるメカニズムに関しての研究の紹介がありました。また、成体の脳においても特定の場所だけで新しいニューロンが作られており、これら新生ニューロンの機能不全が種々の精神疾患と関連していることが分かって来ているとのお話がありました。胎生期に働き大脳新皮質を形成する神経幹細胞は早く分裂するが、成体期に働く神経幹細胞はゆっくり分裂する幹細胞として胎生期から存在しており、長い寿命の全期間で働けるようになっているとのお話は、神経生物学の問題だけではなく示唆に富むお話でした。
次に、東京工業大学の山田拓司先生から、ヒトの腸管内に生息する微生物の遺伝子解析に関するお話がありました。最初にメタゲノム解析の技術的な説明があり、糞便中から直接DNAを抽出して遺伝子配列を解析することで、腸内環境の細菌および遺伝子の種類と数を明らかにすることが可能となりました。最近では、様々な疾患と腸内細菌との関連性や因果関係に関する報告が次々と出されるようになり非常にホットな研究領域となっているとのお話があり、山田先生が取り組んでいる大腸がんとその関連細菌に関する研究のお話がありました。最後に、最近取り組まれている腸内細菌代謝経路データベースの紹介がありました。
最後は、東京工業大学の黒川顕先生から閉会の挨拶があり、ゲノム支援最終年度の公開シンポジウムを終了しました。